舞踏会ではたくさんの種類のダンス曲が演奏されます。日本のダンスパーティと同じものもあれば、ウィーン特有のものもあります。未経験者や初心者はちょっと聞いただけで何の曲か分からないこともありますね。でもどんな種類の曲があるかだけでも予め知っておけば想像しながら楽しく踊ることができるかと思います。みなさんのご参考のために解説をしていきます。
※ここでご紹介する種類の曲が「ウィーン気質舞踏会」ですべて演奏されるとは限りませんのでご了承ください。
【監修:ウィーン気質舞踏会運営機構理事会】
モダン種目とも呼ばれるダンスです。古くからヨーロッパで踊られているもので、競技会での正式種目「Waltz(ワルツ)」、「Tango(タンゴ)」、「Viennese waltz(ウィンナ・ワルツ)」、「Quickstep(クイックステップ)」、「Slow Foxtrot(スロー・フォックストロット)」の5種目の曲に加えてパーティでよく踊られる「Blues(ブルース)」などがあります。ウィーンでは特有の慣習の呼び方があったりしますので各種目の解説をよくご覧ください。
音楽の授業でも習ったズン、チャッ、チャッと刻む3拍子の曲で優雅に流れるように踊るのが特徴です。ウィーンでは単にワルツと言うとこのゆっくりしたワルツではなく、ウィンナ・ワルツ(Wiener Walzer)の方を指します。ではゆっくりしたワルツはなんと言うかというとLangsamer Walzer(ゆっくりしたワルツ)とかEnglish Waltz(英国のワルツ)と言って区別をします。
歯切れのよい2拍子のリズムで、膝を少し曲げて低い姿勢で情熱的に踊るのが特徴です。アルゼンチンで生まれた音楽がヨーロッパに伝わりコンチネンタル・タンゴとしてボールルームダンスでも踊られるようになりました。
その名の通り、リズミカルで速いテンポの曲にのって跳ねるように踊るのが特徴です。ブルースに似ていますがテンポはかなり速いです。日本では(オーストリアの舞踏会でも)クイックの曲がかかるとジルバをその場で踊り始める人が多いですが、クイックを踊る人は速いスピードでフロアを駆け抜けますので、ぶつからないように気を付ける必要があります。
ウィーンフィルのニューイヤーコンサートでお馴染みの4分の3拍子のワルツ音楽に合わせて踊るダンスです。ステップはシンプルですが、1分間に60小節という速いテンポなので、かなりの運動量があります。
オーストリアの舞踏会では、オープニングセレモニーでデビュタントたちがウィンナ・ワルツを披露した後、舞台の上に立つダンス・マイスターの”Alles Walzer! (皆さんでワルツをどうぞ!)” の掛け声とともにダンスフロアが正式にオープンします。
文字通りだと「キツネがゆっくり歩く(忍び足)」が語源のように思っている人が多いのですが、実は違います。1913年にアメリカのダンサーで俳優・コメディアンのハリー・フォックス(Harry Fox) が、自らがマネージャーを務めていたダンスホールにおいて、自らの名を冠したダンスを発表したことからこのダンスは生まれました。音楽の発展に伴い、後にクイックステップとスロー・フォックストロットという2つのダンスに分かれました。
ゆっくりと優雅に途切れることなく流れるように踊ります。ワルツは3拍子ですが、スローは4拍子でワルツのような上下運動はあまりありません。スローが苦手な人や初心者は同じ曲でブルースを踊りますが全く問題ありません。
日本ではダンス教室に入ると最初に習うパーティダンスです。ゆっくりとした4拍子でステップも簡単で覚えやすく初心者向けのダンス種目です。
ウィーンでのフォックストロットは、イギリスで発展したダンスの教本に則っていえば、クイックステップを指します。クイックはテンポが速いので、ウィーンの初心者クラスではこの基本ステップを少し遅いテンポで習います。これが日本の初心者クラスで教えられることの多い「ブルース」と呼ばれているダンスに似ています。日本やアメリカでは基本ステップ以外にもいろいろなブルースのフィガーを習いますが、オーストリアでは2〜3種類のフィガーを習得したら、すぐにクイックへと移ります。それでも呼び名は「フォックストロット」のままにしておくのが慣習となっています。このあたりがややこしくなる部分ですが、4拍子ということは変わりません。
競技会での正式種目「Rumba(ルンバ)」、「ChaChaCha(チャ・チャ・チャ)」、「Samba(サンバ)」、「Paso doble(パソドブレ)」、「Jive(ジャイブ)」の5種目に加えてパーティでよく踊られる「Jitterbug(ジルバ)」などがあります。ウィーンではジルバに似たダンスを(ブギ)と呼ぶなど違いがあります。
ゆったりとした音楽に合わせて男女が離れたり近づいたりしながら愛を表現するのが特徴です。優雅なヒップ・ムーブメントやしなやかな手の動きなど華やかで、女性に大変人気のダンスです。
ルンバが原型でルンバより速いスピードで、リズミカルに軽快に歯切れ良く踊るのが特徴です。ウィーンでは大変人気があり、1曲踊り終えるとかなり汗をかく運動量の大きなダンスです。
ブラジル生まれのサンバですが、ヨーロッパで洗練されて現在の形になりました。サンバ特有のひざと足首を使う上下運動(バウンス・アクション)が特徴で、明るくノリのよいダンスです。このサンバもウィーンでは人気があり、舞踏会でもよく踊られています。
闘牛をイメージして踊るのが特徴です。男性は闘牛士、女性は闘牛士が持つケープをイメージしています。独特の決めポーズがありますが、舞踏会やダンスパーティではあまり踊られません。
アメリカ生まれのJitterbugが英国に渡って体系化されてジャイブになった歴史があります。テンポが速く少しハードですがコミカルで楽しいダンスです。日本ではジャイブの曲でもジルバで踊る人が多いです。どちらで踊っても間違いではありません。
日本のダンスパーティでは最も人気のあるパーティダンス種目です。わかりやすい4拍子のリズムでステップも簡単でも初心者でもすぐに踊れます。このジルバに似ているのですが、ウィーンでは(ブギ)と呼ばれるダンスがあります。
ウィーンで「ブギ」と呼ばれるダンスは、日本でよく踊られるJitterbug(ジタバグ)が訛った「ジルバ」というダンスによく似ていますが、ブギはロックンロールやディスコ・フォックスというダンスの影響を受けながら、ドイツ・オーストリアで独特に発展しました。「ブギ」という名前は、もとは音楽のジャンルを意味する言葉から付けられました。
(NHKの朝ドラ「ブギウギ」でたくさん流れているあの「ブギ」です)ジャイブをはじめスイング、イーストコーストスイング、ロックンロール、リンディー・ホップなど、いくつものダンスからなるカテゴリーに属し、共通した動きが見られます。基本ステップはとてもシンプルで、すぐに習得することができます。
チェコ・ボヘミア生まれの民族舞踊は、オーストリア帝国の首都ウィーンでも流行し、ヨハン・シュトラウスらによってたくさんのポルカ音楽が作曲されました。ポルカのステップにはいろいろな種類がありますが、最も一般的なのはシャッセ(横、閉じる、横)の3つのステップを繰り返しながら回転する踊り方です。それに加えて、オーストリアの舞踏会では、カドリールの後に「トリッチ・トラッチ・ポルカ」や「雷鳴と電光」といった速いテンポのポルカ音楽に合わせて、駆け回るようなギャロップのステップで踊られます。その中では、ペアごとに向かい合って手をつないでずらりと並びトンネルをつくり、その中を他のペアが順番に潜っていくという楽しいシーンもあります。
もとは人馬がチームを組み、音楽に合わせて馬場の中でさまざまな図形を描いて行進したり並んで歩いたり同じタイミングで回転したりと演技をするものでした。18世紀頃にフランスで人間が4人一組となり二手に分かれて方形で踊る形のダンスが始まりました。
ウィーンの舞踏会では、真夜中と午前2時にハイライトとして踊られます。時間になるとお客さんたちが集まってきて、男女のペアごとにずらりと列に並び、偶然正面に立ったペアと一緒に4人一組で踊ります。ほとんどの舞踏会では、オペレッタ「こうもり」のメロディーから作られた6つのカドリール曲に合わせて、決められた振り付けを踊ります。舞台の上に立つセレモニーマイスターを務めるダンス教師が、場所を交換したり、女性を交換したりという動きの名前をマイクを使って説明をしますが、それでも振り付けを間違う人が多く、曲が終わったら男性同士で手をつないでいた!なんてことも起こります。6曲目はだんだんテンポを速くしながら繰り返し踊られ、大騒ぎとなって締めくくられるのがお決まりになっています。
「ウィーン気質舞踏会」でも、一部分を皆さんにチャレンジしていただきますので、どうぞお楽しみに!